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アリッサは急いで舞台の裏手に抜けて、立ち見席へと走った。
「おや、これはヴィンセント嬢。お忙しい最中ではありませんかな?」
アリッサに気づいた支配人が薄ら笑いを浮かべた。
軽く息をはずませて、アリッサは彼をにらみつけた。
「騙したのね! もうわかったわ、あの女優に直前で穴を開けさせて、今夜の舞台を失敗させるつもりだったんでしょ!」
「さて、なんのことですかな。ま、もしそのようなことになってこちらの経営が立ち行かなくなれば、うちの第二劇場として引き取ってさしあげますよ」
「慈悲の心というものはないの!? あなたがちょっとやってくれるだけで、人が助かるというのに!」
支配人は肩をすくめた。
「簡単にやれることだと言うのなら、ご自身でやればよろしい。他人に指示して何かを成し遂げたつもりになるものではありませんよ」
アリッサは歯噛みした。
くやしい。だが言い返せない。
たしかに、この支配人にせよ彼の劇場の女優にせよ、そしてジェイロスにせよ、誰か他人の助けを得ることこそが自分の為すべきことだと思っていた。
「人のお情けにすがるしかない物乞いなら物乞いらしく、せめてあきらめはよくするものです。――そら、彼も頑張っていましたがそろそろ限界ですかな」
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