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アリッサははっとあたりを見まわした。
ジェイロスの熱演は続いているが、それでも謎の主演女優を期待して見に来た層が不満を持ちはじめている。
「おいおい、いつヒロインが出るんだ?」
「まさかこのまま終わるつもりじゃないだろうな?」
「結局主演女優は誰なんだよ?」
周囲でささやきかわされる不穏な言葉が、アリッサの耳に飛びこんだ。
ヒロインが現れないことには、納得してもらえないに違いない。
ジェイロスにも聞こえているだろう。不安に駆られたアリッサは舞台を見上げた。
すると、ジェイロスがふりむいた。
うっすら額に汗を光らせ、彼はかすかにアリッサにうなずいた。
「――ああ! 余の呪いを解く者はどこに! 鳥も通わぬ山の彼方、あるいは月の果て、空の極みにいるというのか――いや違う、清らかなるダーナはここにいるのだ。見よ、見よ、ジェイロスよ、心の目でとくと見よ」
観客を見わたすジェイロスの視線が、ゆっくりアリッサにむかってくる。
楽屋の鏡に映った自分の姿が脳裡をよぎる。
色気のないひっつめ編みに、眼鏡、襟を一番上まできっちり締めた服。
劇場街の住人とはとても思えない地味な姿に、これまで培ってきた常識がやめろとささやいてくる。
だが、アリッサは舞台へと手を差しのべた。
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