0人が本棚に入れています
本棚に追加
アリッサは、なんとかしてジェイロスが劇場に収入をもたらしてくれるようにならないかと懸命に考えた。
「それでね、あなたでもやれそうな恋愛劇を探したのよ」
「やらん」
一瞬でジェイロスが素に戻る。
「どうせ、誰が惚れたの誰が振ったので大騒ぎする腑抜けた色恋沙汰なのだろう。英雄王にはふさわしくない」
いつもの石頭ぶりが出た。
アリッサは眼鏡の奥の淡褐色の目を据えた。
「あなた、仮にも役者でしょ? 自分以外を演じられるから役者なんでしょ!」
きらりと光った眼鏡の迫力に、ジェイロスもわずかにひるんだ。
「だがしかし、余は英雄王ジェイロスとして――」
「わがままを言っていると、いまあなたが立っている舞台そのものがなくなるのよ。だから今度は、これをやりなさい」
山羊革の本にはさんでいた脚本をつきつける。
ジェイロスはしぶしぶ舞台を降り、ほとんどつまむようにして脚本を受け取った。いやいや表題を読みあげる。
「『カーティスとダーナ』……?」
「そう。カーティスは英雄王に仕える金枝の騎士のひとりよ」
「そんな名の騎士は金枝騎士団にはいないぞ」
最初のコメントを投稿しよう!