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「本当にいたかいないかじゃないの、脚本上いるんだからそれでいいの! カーティスは、英雄王が魔王から受けた傷を癒やすために星月夜の銀鈴草を探す旅に出るんだけど、そこで羊飼いの娘ダーナと出会って恋に落ちるのよ。英雄王そのものじゃなくても、金枝の騎士の役くらいならやってもいいでしょ?」
ジェイロスは脚本を眺める鉄紺色の目を細めた。
「ふん、わかったぞ。英雄王の名ばかりを借りた、後世のまがいもの劇のひとつだな」
やらん、とまた切って捨てられるより早く、アリッサの眼鏡が光った。
彼は所詮気ままな役者だが、アリッサは違う。劇場経営に失敗すれば、往くあてもなく無一文になるしかない。
「だから、何? あなたはたとえ川岸でだって英雄王を演じられればいいんでしょうけどね、わたしにはここ、このヴィンセント劇場しかないの! 文句があるならいますぐ蹴飛ばしてやるから!」
「英雄王を蹴飛ばすだと! なんたる横暴、なんたる無法――」
「黙りなさい! 次に口にしていい台詞はふたつにひとつよ、『やる』か、『やります』か!」
「や……る」
ジェイロスは仕方なさそうにうなずいた。
「だがこのダーナとかいう娘の役はどうするのだ? まさかおまえが演じるのか?」
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