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セルレーン劇場の支配人はめかしこんだ中年の小男で、整えた爪と黒すぎる髪がいつもぴかぴか光っている。
「おかげさまで、と申しあげたいところですけど、正直なところはあなたのお耳にも届いていらっしゃるのでしょう?」
支配人は愛想笑いを浮かべた。
「まあ、都会雀はそこらじゅうでさえずっておりますからな。しかし面会の申しこみをいただくとは、まったく予想しておりませんでしたよ」
「ええ、情けない話ですけど、うちの劇場の赤字ぶりと来たら、よそさまの慈悲の心にすがる以外にもうどうしようもありませんの」
アリッサは正直にぶちまけると、眼鏡をかけなおして支配人をじっと見た。
「手紙でもお願いさせていただきましたけど、こちらに所属の役者をひとり、貸していただけませんか?」
「しかも無報酬で、とのことでしたな」
「今度の舞台の準備で精いっぱいですもの」
支配人の愛想笑いはぴくりとも動かない。
「そちらの都合はよくわかりましたが、いったいその話を受けて、私どもにいかなる益があると?」
「才能がありながらも出番に恵まれず、腐りそうな役者を育てることができますわ。いくらセルレーン劇場でも舞台はひとつきりしかないのですから、出られる役者の数も限りがありますでしょ」
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