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アリッサは外に出て、夕暮れが迫る劇場通りを下った。
開幕にはまだかなりの時間があるというのに、セルレーン劇場の前には早くもちょっとした人だかりができている。
(人気の劇場はいいわね……)
ため息とともに通りすぎようとしたとき、会話の切れ端が耳に入った。
「謎のヒロイン、って誰だろうな? セルレーンおかかえの誰か若手の子だろ?」
アリッサは足を止め、人だかりの外からそうっとのぞいてみた。
次回予告看板に交じって、それなりに目を惹くところにぺたりと貼り紙が増えている。
――隠れた話題作、ヴィンセント劇場『カーティスとダーナ』謎のヒロインの正体を見よ!
一行で矛盾する煽り文句はさておき、たしかに効果は出ていた。
これから有名になりそうな若い役者に目をつけて事情通を気どりたい観客には、伏せられた主演女優が誰なのかということは大いに興味をそそるのだろう。
「……なるほど、こういうやり方もあるのね」
感心したアリッサは予定を変えて、セルレーン劇場の支配人室へとむかった。
支配人は快く会ってくれた。
「いま見ました、宣伝までありがとうございます! なんと感謝すればよいか」
「いやいや、お気になさらず。この劇場通りが盛りあがることが何よりですからね」
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