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 そんな僕が最近日課にしているのは、春先に知り合ったリンさんの店『サイクル小林』に顔を出す事だ。  あの日ーーー僕がリンさんに助けられたのは本当に偶然だった。  普段通りに自転車に乗って帰宅している途中、何か尖ったものを踏んでしまったのか、自転車のタイヤが急に重くなってパンクに気付いた。僕はその日も夕刊配達のバイトが入っていて、どうしたものか、とガタンガタンとタイヤが回る度に振動を起こす自転車を押しながら途方に暮れていた。  ただのママチャリではあっても僕にとっては大切な仕事の相棒だ。 汚れれば洗車もしたし、タイヤの空気が減っていればバイト先で空気を入れては大切に乗っていた自転車だ。何度か倒れてカゴとハンドルが歪んでしまっていたけれどそれでも僕には頼れるアイテムだったのに。  この状態の自転車には乗れなくて、僕は頭が真っ白のまま自転車を押していた。 自転車がないと全ての新聞を配達し終わる時間が何倍も遅くなる。走って配りまわっても普段よりも遅くなってしまう。 たくさんの人に迷惑をかけてしまう事が分かっているのに、今の自分にはどうしようも出来ない。それがとても悔しい。  それに今日が何とかなっても明日からの配達はどうしよう。朝刊の方がもっと量もたくさんあって、時間だって学校が始まる前に終わらせなければならない。  今後の事を思って僕はどうすればいいのか分からず、自分の無力さに打ちのめされてとぼとぼと歩いていた道すがら、颯爽と現れたリンさんは、パっと僕の自転車の姿を見てすぐに応急処置をしてくれた。
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