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「ほら、これで取り合えず今日は大丈夫だろう。でもこのままじゃすぐにタイヤがダメになる。お前、明日は時間あるのか?」
「あ、ありがとうございます。明日ですか?」
「ああ、このままじゃダメだ。タイヤのチューブを交換する必要がある。」
「えっ、交換…ですか?」
「いずれ近い内に同じようにパンクするだろうさ。ほら、ココ見てみな。薄くなってるの分かるか?」
そう言われて指し示されたタイヤの部分は素人の僕にはよく分からなかったけれど、リンさんの口調からこのまま放置していいものではないと分かった。
「えっと……交換って絶対しなきゃダメですか?」
僕の脳裏には、自転車のタイヤ交換ってどのぐらいお金がかかるものなのかな、とただそれだけが気がかりで。のほほんと聞いている僕の顔を見てリンさんは酷く鋭い目つきに変わると、僕を怒鳴りつけた。
「お前っ、分かってんのかっ!必要あるから交換しろって言ってんだっ。何も問題なかったらそんな事言ったりしねぇ。」
普段、怒鳴りつけられるのはバイト先の古参の人間で慣れてはいたけれど、初対面でこんな風に怒鳴られた事などない。僕は思わず目の前の男をマジマジと見つめてしまった。
「この自転車はな、満身創痍なんだよ。頑張って走ってきたけどタイヤの溝は減っているし、パンク修理も結構しているだろう。本当はチューブだけじゃなくてタイヤ本体を交換したいぐらいなんだよ。」
「は、はいっ…。」
余りの剣幕に僕は頷いて同意を表わす他無くて、そんな態度に男は益々イライラを募らせたようだった。
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