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「聞いてたのかよっ。このままこれに乗り続けたら確実に壊れるって言ってんだ。その時何もなかったらいい。でも故障した瞬間どこで何をしている最中なのかなんて分かりはしないんだ。
もし倒れた所に車が突っ込ん出来たらどうする?お前の自転車が急に止まっちまって誰かに怪我をさせたらどうする?色んな可能性が考えられるんだよ。」
この自転車でこのまま走っている最中にパンクが起きたらどうなるか、なんて全く頭の片隅にも上らなかった。
走っている時に故障が起きる事は想像出来なかったし、自分の行動で誰かが怪我をする可能性なんてほんのひと欠片も思い浮かばなかった。
「ご、ごめんなさっ。」
「謝ってほしい訳じゃないっ。俺は自分の行動には責任を持って欲しいだけだ。」
そう言うとリンさんは僕に一枚の名刺をくれた。
後から聞いたら偶々一枚残っていたやつで、原付バイクの収納部分に入れっぱなしになっていた奇跡の一枚だったそうだ。
「ほら、これやるから、明日ここに来い。金とか良いから。とにかく絶対に来いよな。」
そう言って去っていったリンさんの後ろ姿を呆気にとられたまま見送って。次の日恐る恐る向かった『サイクル小林』で扉を開けた僕を見て、リンさんは開口一番。
「よく来たなっ。」
と笑った。その笑顔が酷く印象に残って、僕はそれから暇を見つけてはリンさんに会いに『サイクル小林』に通い詰めている。
知り合ってみるとリンさんはとても気さくな人で、口調は少し荒いけれど他人の気持ちに聡い実は繊細な人だった。
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