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「客商売だからな」と言って謙遜するけれど、人と話すのが上手なのに聞き上手でもあるからか、いつの間にか自分の事を洗いざらい話してしまっていたりする。
そうやってお客さんの困っている事を探り当てて手助けしている姿を何度か見かけた。
切れ長の目は涼やかで短髪黒髪の姿からストイックな印象を受ける。まぁ口を開くと少々その印象も変わってくるんだけれど。
硬派そうに見えて甘い物が好きだし、僕のポケットに入っている飴玉一つで機嫌が良くなる可愛い所もある。
僕より10歳上なのが気になるらしく、事あるごとに『おじさん』発言をするから、「そんな事ばっかり言ってるとリンさんじゃなくて”リンおじさん”って言っちゃうよ。」と言ったら流石に焦って「もう言わない」と言っていた。
僕はその焦り具合にビックリしたけれど、見た目で言えばリンさんはとても格好いいお兄さんって感じで、『おじさん』というカテゴリーには入らないから、自分を卑下しないで欲しかっただけで本当に言うつもりなんて毛頭なかった。
僕の方こそ申し訳なかったな、と思った。
『サイクル小林』は地元に根付いた自転車屋で、新しいタイプの自転車も販売はしているけれど修理の依頼でやってくる客がほとんどだ。
リンさんのお祖父さんがここで商売を始めたらしく、リンさんで3代目だって。何度か店の内装はリフォームしているけれどそれでも今時のお洒落な自転車屋さんとは言い難い、またそれがかえって味のある、趣のある居心地の良い店だ。
自転車オイルの匂いだったり、土ぼこりの埃っぽい感じだったり。リンさんが仕事をしている空間を眺めているのが好きで何度も足を運ぶうちにいつの間にかそれが習慣になってしまった。
自転車の傍に跪いて真剣に仕事をしているリンさんの背中を見るのが今の僕にとって至福の時間だったりする。
……そう、きっと僕はリンさんに仄かに恋をしているんじゃないか、と思う。
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