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「リンさん、いる~?」
「お~、こっちだ。」
店の奥にある小さな休憩スペースにリンさんはいた。
僕は昨日の約束通り、今日は買い物を済ませてリンさんの夕飯を作りにやってきた。リンさんの居住スペースは『サイクル小林』の2階部分で店の中階段から登っていくのだ。
「本当に来た。」
「え、冗談だったの?」
「まぁ、それでもいいかと…。」
「僕、そんな事しないよ。」
「そうだな、倫太郎がそんな事する訳ないな。悪かった。」
約束を破るような人間だと思われたみたいで僕は嫌な気持ちになった。そして同時に悲しい気持ちにもなった。
知り合ってからの時間は短くても、僕がどんな人間なのかリンさんには分かってもらえていると思ったからだ。そんな僕の気持ちに気付いたように、リンさんは申し訳なさそうな顔で俺にもう一度頭を下げた。
「倫太郎、ごめんな。勝手に決めつけたりして。お前が真面目で律儀な奴だって分かってたし、一度約束した事を理由もなく破ったりするような奴でもない事を知ってるはずなのに。あんな事言ったりして。」
本当にすまなかった、と深く頭を下げられて、僕は慌ててリンさんに声を掛けた。
「もういいよ。その代わり今日の夕飯あんまり期待しないでよね。僕の恨みが料理の中に~♪。」
「悪かったって。なぁ、機嫌直してくれよ。」
焦って僕の機嫌を取るリンさんの姿に思わず笑いが漏れる。
「大丈夫。ワザと失敗する気はないから。」
「何だよ、じゃ、ワザとじゃない失敗はあり得るってことか?」
「そうとも言う。」
僕は買ってきた食材を持ってどうしたら良いのか迷っていた。ここから先には入った事がない。だってこの先はリンさんのテリトリーだ。誰でも入れるお店とは訳が違う。
そんな風に思ったら急に気後れしてしまって、気軽に夕飯を作る、なんて言わなきゃ良かったと後悔した。
「ほら、こっちだ。何やってんだ。」
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