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(リン)さん。空気入れてもいい?」 「おー、倫太郎か。いいぜ、しっかり入れていけよ。」  大きなガラス窓の玄関口。全面ガラス張りの店舗入り口に自転車を置いて、僕は中にいるリンさんに声を掛けた。 いつもならガ鳴り立てる程の音を鳴らしているラジオの音が今日は聞こえない。その分僕の声は奥まで通って、作業途中のリンさんにも届いたようだった。 今は自転車をスタンドに立てて固定しながら、チェーンを交換している最中のようだ。僕は手早くタイヤに空気を入れて、店に入っていった。 「あれ?その自転車、つい先日も修理に来てなかった?」 「あ~何かな、乗り手が無茶な乗り方したみたいでな。普通に乗ってりゃ早々外れるもんでもないのに。ま、前回は弛みを調整したぐらいだったから、今回ので交換だな。」  ちぇっと舌打ちしながら、口調とは裏腹に丁寧な手つきでチェーンを交換していく。 汚れと油で黒ずんだチェーンに触れた指先は褐色のぬるぬるとした液体でベトベトしていて思わず「うへぇ」という声が出た。 「うへぇってなぁ、お前。」 「あ、ごめん。悪気があった訳じゃないんだけど。」 「当ったり前だ。お前俺の仕事を何だと思ってるんだ。」  機嫌を損ねてしまったようで、リンさんが不貞腐れたように唇を尖らせている。僕は申し訳ない気持ちになって何かないかと学ランのポケットを探った。 カサと指先が何かを拾って、ああ、そう言えば友達からもらった飴玉があった、とリンさんに差し出した。 「ごめんって。飴、飴あげるから、機嫌直してよ。」
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