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5
「旨いっ。こんな旨いハンバーグ初めて食べたっ。」
僕の料理をリンさんはとにかくよく食べた。
ハンバーグも付け合わせのスパゲッティも。箸休めに作っておいた浅漬けもきんぴらも。あると分かったら「ほんの少しだけ」なんて眉を下げてお願いするから「ちょっとだけですよ」なんて言って小鉢によそってしまった。
甘い大学芋を食べて頬を緩ませるリンさんは、27歳の男性よりももっと若々しく見えてまたしても僕の琴線に触れる。
「リンさん、よく食べるね。僕、もうお腹一杯だよ。」
最後にみそ汁を飲み干してご馳走様をした僕に、リンさんはにっこりと笑ってこう言った。
「いや、倫太郎の料理が旨すぎて箸が止まらないんだって。」
臆面もなくそう言って料理を褒めるリンさんの言葉に僕は呆れ半分喜び半分で曖昧に笑った。
「そっ、そんなお世辞言っても、もう何もないよ。」
「お世辞なんかじゃねぇよ。」
ニコニコと笑うリンさんが食べる姿を見ていると、ふと汁椀が余り減っていない事に気付いた。
他のお皿は綺麗に食べられているのにみそ汁だけが残っている。僕はふと嫌いな物を聞いた時のリンさんの様子を思い出して、もしかしてと声を掛けた。
「リンさんって、もしかして茄子…嫌い?」
瞬間ビクッと身体を強張らせたリンさんはまるで悪戯が見つかった子供のような顔で俺に謝った。
「いや、嫌いとかじゃなくて…苦手っていうか。」
僕がそのままリンさんを見ていると沈黙が益々リンさんの罪悪感を煽ったのか、リンさんは慌てて僕に言い訳した。
「む、昔から茄子ってちょっと苦手で…。祖母ちゃんの料理は頑張って食べてたんだけど自分1人になったら益々手が遠のいたって言うか…。」
「茄子のどんな所が…。」
「あー食感?味なんてあんまりしねぇし…。」
それでも作ってもらったのに食べないと悪いな、なんて思って我慢して食べようと思ったんだろうな。きっとリンさんならそうやって相手の気持ちを蔑ろにしたりしない。不器用だけど基本真面目で良い人なんだ。
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