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差し出した飴の包み紙をチラっと見たリンさんは、暫く黙ったままだったけど僕がずっと手を差し出したままでいたら、「ん。」とだけ言って俺に向かって顔を向けた。
「あ、ちょっと待って。」
流石に手の汚れが気になって、除菌シートで軽く手を拭う。この店には色んな場所に携帯用のウェットシートが置いてあって、みんな勝手に使っていく。
急いで包み紙から取り出した飴は艶々としたエメラルドグリーン。包み紙には『シャインマスカット』って書いてあった。
あーん、と餌を待つ鳥の雛よろしく飴を待つリンさんにちょっとだけ微笑んで、僕はポイ、と口に放り込んでやった。
「ん、まぁ許してやる。」
飴玉一つで機嫌が直っちゃうなんて面白い人だ、と笑いそうになってグッと堪える。ここで笑ったらまた機嫌が悪くなっちゃうに決まってる。
「で、今日はどうした。自転車調子悪いか?」
「ううん。この前リンさんに診てもらってから調子良いよ。っていってもただのママチャリだけど。」
「ママチャリだって丁寧に扱ってやりゃ十分走るもんだ。倫太郎のママチャリは俺がメンテしてやったんだ。絶対そこいらの自転車より丈夫だ。」
自転車に丈夫って何だよ、と思いながら俺はリンさんにお礼を言った。
「その節はありがとうございました。あ、そうだ。母さんに言ったらちゃんとお金払ってきなさいって言われたんだ。ねぇ、リンさん、ちゃんとメンテ代貰ってくれない?」
「いいって言っただろうが。あの時の俺はボランティア精神に溢れてた時だったわけ。良いカモがいるなぁなんて思った訳じゃねえんだから。」
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