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「自分じゃない誰かに作ってもらうってのが良いんじゃねぇか。
なぁ、独り身の寂しいおっさんに料理の一つや二つ作ってやったってバチは当たらねぇだろうが。あ、そうか。親に内緒って訳にはいかねぇもんな。倫太郎のおふくろさんに挨拶しておいてやろうか。」
「いいって、いいって。分かった、分かったから。母さんには僕から伝えておくし。でもさぁ、本当にそんな事でいいの?リンさんなら作ってくれる彼女の1人や2人いるでしょう?」
「2人もいたら問題だろうが。いねぇよ。俺は恋人もいない27のおっちゃんですよ。」
「27っておじさんって歳でもないと思うけど…。」
「ああ?」
「ううん。分かった。リンさんにご飯作るね。」
そう言うと、リンさんはとても嬉しそうに笑った。そんなに他人が作るご飯が嬉しいのだろうか。ハードルが上がってしまいそうだ、と思ったけれど、確かに毎日自分の為に作る料理は同じ物の繰り返しになりそうだな、と納得した。
僕の場合は看護師の母と2人暮らしで、仕事の忙しい母に変わって家事はほとんどが自分の担当だけれどそれでも時折母親が作ってくれる料理の数々は自分の味付けとはちょっと違っているし、とても美味しい。
そうだ、自分の為に誰かが作ってくれる事が嬉しいんだ。そう思った僕はにこにこしているリンさんも同じように自分の為に料理を作って欲しいのだろうと思った。
「じゃ、僕リンさんの為に料理するよっ。」
気合いを入れてそう宣言する。
「ああ、頼む…。」
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