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 僕の家は母子家庭で、少しガタのきた古いアパートに2人で住んでいる。母は正規の看護師をしていて夜勤も多く家をあけがちだが、家にいても疲れて爆睡している事が多い。    普通のパート従業員よりもお給料は良いので公営住宅などには入居出来ず、僕が生まれてからずっとこの狭い台所と辛うじて2部屋の間取りを確保した2Kのアパートに住み続けている。  父は僕が生まれてすぐに死んでしまったと言っていた。事故じゃなく病死だそうだ。看護師の母と知り合ったのも病院だっていうから驚くけれど。 結局病魔は僕から父を奪ってしまったけれど、母は父が僕を残してくれた、といつも言っている。  父の事は全く知らないけれど、それでも母がとても愛おしそうに父の話をするから、僕は両親の愛情を感じて育ってきたと言える。  母が1人で僕を育てる事は並大抵の事じゃなかったと思う。僕が赤ん坊の頃は病院内の託児所を利用して勤務を続け、毎日泣いて母を恋しがる僕を残して仕事に行くのは辛かった、と今も時たま僕に話すから、記憶はないけれどとても申し訳ない気持ちになる。 僕は今高校2年になるけれど、今まで育ててもらった恩を母に少しずつでも返していけたらと思っている。  今でこそそんな殊勝な事を思う僕ではあるけど、そう考えるにはキッカケがあった。  僕が中学生になった頃、母が身体を壊した時があった。  けれど、僕はそれに気づかず母に対して反抗的な態度を取ってしまっていた。僕の為に毎日仕事をしてくれている事は分かっていたけれど、真新しい玩具を買ってもらった事も、一緒に旅行に行った事もない。 同じ歳の友達とも微妙に話が合わず、自分という存在の意味が分からなくなっていた時期だった。
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