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 そんな時、母の古びた化粧台の奥に隠すように置かれた処方薬の袋を見つけてしまった。 中には数種類の薬の束がごそりと入ってあって、その量の多さにゾッとした。そこで僕は思い至った。母という存在がいるからこそ自分もここに居るのだ、と。  もし母の病気が治らないような大変な物であったとしたら、僕はもうすぐ1人ぼっちになってしまう。この世で何があっても僕を抱き締め励ましてくれる存在がいなくなる事は想像するだけでも恐怖で、僕はその夜一睡も出来ずに母の帰りを待っていた。  もしこのまま母が帰って来なかったらどうしよう。このまま1人ぼっちになったらどうしよう。そう思ったら眠る事など出来なくなって、とにかく毛布を被って玄関のドアをジッと見つめていた。  朝が来て、母が疲れたように帰ってきた時はもう堰を切ったようにわんわん泣いて。何か大変な事が起きたのか、と母を驚かせてしまった。  結局、母の病気は疲労が溜まっている事による体調不良だと聞いて、少しでも母の苦労を減らすべきだ、と一念発起。それまでイヤイヤながらやっていた家事は率先してやるようになったし、勉強も母の喜ぶ顔が見たくて一生懸命取り組むようになった。  母が休みなく働くのは僕の為だと気付いていたのに、何て傲慢だったのだろうと今ならそう思えるけれど。それでもあの時母の薬の束を見つけて良かった、と心底思う。 あの出来事がなければ僕はもっともっと自分本位で怠惰な毎日を送っていただろうから。  そして、僕が母の為に、と決心してやり始めたのが新聞配達のバイトだった。 最初はギリギリ学校に間に合うぐらいで。朝からへとへとになる事もままあったけれど。道順や配達先を覚えればそれ程大変な作業じゃない事に気付いた。  新聞販売店のおじさんは、僕が中学生だというと難色を示して、雇う事には反対だったのだけれど。 それでも何とか毎日時間内で配達を終わらせてくる僕の姿を見て少しずつ態度を軟化させた。
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