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翌週の金曜日。澄み渡るような青空。久しぶりに空が美しい、なんて詩人のような言葉が頭を駆け抜ける様な休み時間。今日も彼女の座るベンチの端が空いていると決めつけて、俺は弁当を下げデッキを歩く。
いつものベンチが見えてくると、俺の足が勝手に止まった。
そこには金曜日の彼女と、そして・・・
「お疲れ様です、今日は満席ですね」
よかったね、彼、来てくれたんだね、と感動すら漂わせるような笑顔を浮かべた俺に、彼女も目いっぱいの喜びを表したような表情でお疲れ様ですと返してくれた。
待ち人の男が不思議そうな顔で俺と彼女を交互に見るので、
「お昼はベンチ争奪戦なんですよ、この辺は。で、たまたま先週このベンチでご一緒させてもらって」と流れるように答えた。
男は辺りを見渡しながら、納得の表情で俺を見上げた。
「あ、じゃあよかったら、つめればもう一人座れますよ」
・・人のいいオトコだな・・
「いえ、ベンチは二人までって、暗黙の了解があるようなないような」
俺の気の利いたセリフに男も、そしてもちろん彼女もコロコロと声を上げて笑った。
じゃあ、と背を向けようとした俺に、彼女の口元が動いた。ありがとう、って。
声なき言葉を受け取って、俺は歩き出す。空を見上げながら心の中で呟く。
・・あーあ、俺の代役説はなくなっちまったか・・
でもまあ、いいじゃないか。背中で聞き取った、良い人だね、の小さな声。
それで良しとしようじゃないか。
おわり
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