良い人

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 いつもの席、といいたくなるほど座るベンチの位置は決まっている。  2階のデッキに並んでいる、一番手前にあるベンチ。ほとんどの人が奥へと行きたがるので意外といつも空いているのだ。  今日も所定の場所へと歩を進めると、めずらしく先客が座っていた。  ベンチは、3人はゆうに座れるくらい長いので、一人で座っていてもたいていは後から誰かがもう片側の端に座ってくる。なので驚きはしないが、いつもは自分が先にすわっていることがほとんどなので、ちょっとだけ負けた感が目の前の風に乗って通り過ぎた。  座っていたのは女性だった。俺よりも二つ三つ若いくらいだろうか。  膝の上に花柄のハンカチを広げ、その上にちんまりとした弁当を乗せていた。 「あの、こっちの端に座ってもいいですか?」  一応断りを入れた。  俺が先に座っている時には、そうやって声をかける人もいれば黙って腰を下ろす人もいる。特に挨拶にこだわっているわけではないが、若い女性には好印象を抱かせなければと、良い人を演じる俺だった。  女性は顔を上げ俺の顔を見る。その時の期待に満ちた目。こっちが嬉しくなるような真ん丸な目だった。が、俺の顔を認識すると少しがっかりしたように目を伏せた。でもすぐに笑顔を作り、どうぞ、と静かな声で応えてくれた。  ちょこんと頭を下げてからゆっくりと腰を下ろす。すぐさま膝の上で弁当包みを開く。 お気に入りの曲げわっぱの弁当箱に女性なら反応してくれるのではと期待したが、彼女は前を向いたままちょこちょこと箸を口に運んでいた。
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