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翌週の同じ曜日、また彼女に先を越されていた。
俺の指定席のようなベンチに、あの女性が座っていたのだ。
なんという偶然、と俺は心躍らせた。
「あの」短い一言だけをかけた。
すると先週と同じように期待に満ちた目を向けた彼女だったが、またもや一瞬で色が変わった。だけど今日は、すぐに口元をほころばせた。
「隣、座ってもいいですか?」
「ええ、どうぞ。先週も・・ご一緒でした、よね?」
彼女は俺のことを覚えていた。どういう意味でかは分からないが、覚えていた。
「いやあ嬉しいです、こんな男のことを覚えてくれていて」
笑いをとりたいわけではないが、笑ってくれるとなんだか達成感に満ち溢れる。
ただただ笑っている彼女と同じベンチで、今日も有意義な昼休みを過ごせることにこっそりと俺も笑った。
さっそく弁当を広げると、素敵なお弁当、と彼女が微笑みをくれた。
先週は気づいてもらえなかったが、今日は気が付いてくれた。
「奥様の手作りですか?」
ごくありふれているがごく適した問いかけだ。
「いえ自分でつくりました。私、まだ独身なもので」
「えーすごいですね、栄養バランスも良さそう」
お褒めにあずかり光栄なのだが、せっかくアピールした独身というところにはまったく触れられなかった。
「あなたこそ、美味しそうなお弁当じゃないですか」
褒め返すと恥ずかしそうに小さく首を振った。
それを合図のようにして、まずは互いに黙々と弁当を食べた。
箸を動かしながら時々彼女の方に視線を向ける。先週と同じようにちょこちょこと箸を口元に持っていきながら、結果的には俺と同時くらいに食べ終えた。
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