だましあい

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✩.*˚ 葬式が済む頃に、私の遅い夏休みが終わった... もう秋は進んで、いつの間にか、彼岸花(ひがんばな)が田舎の土手の緑を埋めつくしていた。 もう少ししたら、金木犀(きんもくせい)の香りがどこからともなく流れてきて、木の葉も落ちるのだろう。 あっという間に息の(にご)る寒い冬を通り過ぎ、桜が短い命を終わらせて、緑が生き生きと田舎の景色に広がり、蝉時雨の降る頃が来たら、今度は祖父の初盆でここに戻って来るのだろう... 多分あっという間だ... そう...あっという間だ... 「忘れもんないか?」と、寂れた駅まで送ってくれた兄が私に訊ねた。 「ええよ、忘れたら来年取りに来るから...」 「...せやな...来年な」と、兄はしみじみと呟いた。 国産のベンツから荷物を下ろして、無人駅の改札を通った。この田舎ともまたしばらくお別れだ... 「...なぁ、美咲。爺ちゃん、お前に《おおきんな》って言ったんやろ?」 改札を挟んで、兄は私に訊ねた。 振り返ると、兄は複雑な顔で、一言だけ私に告げた。 「フリをしたんはお前やなくて、爺さんの方かもな...」 その言葉で、祖父の残した言葉の謎が解けた気がした... 祖父は、本当は...ボケてなんかなかったのかもしれない... あれは最後の祖父の我儘(わがまま)だったのかもしれない... だから、偽物の《田鶴子》の不自然も笑って見逃したのだろう。 電車を待つ(さび)れたホームから、すぅっと遠くまで続く高い秋の空を見上げた。 私より演技の上手い祖父が、あの向こう側から見ている気がした。
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