友達ごっこはやめた

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 放課後、書道部の顧問に頼まれて、職員室から荷物を運ぶことになった。職員室に向かう途中、渡り廊下でよことやまがいるのを見かけた。  練習中なら邪魔したら悪いと思ったけど、二人は何やらおしゃべりをしていたから声をかけようとした。けれど、話し声を聞いてその角から出られなくなってしまった。 「うめってさ、言ってることが嘘っぽくない?」 「そう?」  廊下の壁にベタッと背中を押し付けて、息をひそめて二人から隠れてしまった。スゥーっと血の気が引くのを感じた。  私が身を潜めていることを知る由もない二人は、お構いなく話し続ける。 「拓海くんのことも、かっこいいって言ってくれるけど、本当に思ってるのかな」 「あ〜、確かに。『うん、うん』って言ってくれるけど、ほんとに聞いてる? って思うことはある」 「でしょ〜? なんか嘘っぽくてさ〜」  え……。嘘じゃないよ。拓海くんかっこいいって、本当に思ってるよ。嘘ついてないよ。  鼓動がうるさい。思考の邪魔をする。私のことを気にも留めない生徒たちが、楽しそうにおしゃべりしながら目の前を通り過ぎていく。 「やば。そろそろ練習戻らなきゃ」 「うん、行こ」  バタバタと渡り廊下を走っていく二人の足音が、だんだん遠くなっていく。私は足音が消えていくのを感じながら、徐々に壁から身体を剥がしていく。固まっていた脳が循環する熱でゆっくりと溶けていくように、少しずつ頭が回ってきた。
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