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結果からいって、舞台は散々だった。台詞は抜けるわ、噛むわ躓くわで崩れっぱなしだった。
そんな中でも、やはり先輩は器用に演技し、客席を魅了した。そんな先輩と向かい合う部分だけは、我ながらよくできたと思う。まあ、そこだけなんだけど。
多くのフォローあって、なんとかラストまで繋ぐことができた。アドリブの連続で、ストーリーは激変したが。
部員の皆も顧問も、面白かったし結果オーライと言ってくれた。事実、観客もギャグコメディへと姿を変えた劇を、笑声たっぷりに見てくれた。
ならば成功と言うことにしよう――とはならず、僕の心は沸き上がる申し訳無さで破れそうになっていた。
無人のステージから、空になった客席を眺める。失敗も罪悪感もあるのに、立っていた感覚だけは既に遠くなっていた。夢を見ていたのだと、言われたら信じてしまいそうだ。
「林野くん、お疲れさま。えと、もう鍵しちゃうから出て下さいって……」
現れた先輩は、いつもの先輩に戻っていた。柔らかい笑顔で、僕が動き出すのを待っている。
だが、動けなかった。優しい眼差しに耐えかね、俯いてしまう。
自ら請け負ったのに、結局多くの迷惑をかけてしまった。皆にも、先輩にも。謝罪が脳を巡り、唇から出ようとする。
「…………先輩、僕」
「私、楽しかったよ」
だが、遮るよう投じられた声が、罪悪感を抱き締めた。
先輩は、苦味の少ない微笑みを浮かべている。と思いきや、小さな逡巡を挟み込んだ。視線が四方八方へ、さ迷っている。
「……あの、あのね……私ね。もし、もし林野くんが良かったらなんだけどね……また一緒に……舞台に立ちたいなって……」
心が震えた。大失敗の後の誘いは琴線を揺さぶる。手を差し伸べられ、掴まないなんてできなかった。
「た、たくさん練習したら、僕も先輩みたいに演じられるでしょうか!」
敢えて目を見て、台詞のように読み上げる。
「きっとすぐ、上手になるよ!」
まっすぐな声と鮮やかな笑みが、僕の全身に染み込んだ。
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