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小道具の作成係として、部活に勤しむ。リーダーの指示に従い、手を動かすだけの仕事だ。今は二ヶ月後の地元イベントへの参加に向け、各自準備を進めている。
地元イベントは新入生が流れを掴むためのものらしく、気軽にしていいと顧問は言っていた。
その為か室内の空気は緩やかで、雑談のノイズが各方面から飛び交っている。声音が多くなるほど聴こえ難くなるせいで、居心地が悪かった。
しかし、そんな中でも先輩の声だけは特別なままだった。まるでベールを纏っているかのように、他と混ざらず耳を通るのだ。ヒロイン役に相応しい、真っ直ぐで透き通った声が。
現実の姿にはがっかりしたが、演技中の先輩はやはり僕を惹き付ける。ずっと聞いていたい、そう思わせてくる。
先輩との交流で性格を直す――抱いていた目標は砕かれた。とは言え、元々一方的に妄想していただけの希望だ。残念な気持ちは拭えないが、諦めるほかなかった。
以前のように他人のままでいよう。そう決めて、作業に打ち込んだ。
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