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 あの日を境に、憧れの感情が戻ってきた。いや、以前より強い憧れが、僕の中に灯りだした。  二人で放課後の部室を貸しきりにする。台本なしで練習する先輩は、今日も僕を心地よくさせた。教室の壁に背を預け、真ん前と言う特等席で耳を澄ます。  先輩とは、あれから幾度か話をした。先輩が昼休みに裏庭へ。放課後は一緒に居残りを。そうやって、二人の時間を作った。  先輩は多少僕に慣れてくれたのか、当初より戸惑いなく話してくれるようになった。とは言え、毎日ほぼ決まった台詞でしかやり取りしないが。  先輩曰く、定型文や用意された言葉なら、迷いなく言えるらしい。  流れ続けていた台詞が途中で止まった。何日も聞き続けていれば、ラストの台詞ぐらいは確実に覚える。  急な停止に疑問を浮かべ、先輩を見ると思い出す仕草を取っていた。台詞が抜けてしまったのだろう。  体を持ち上げ、荷物付近の台本を取る。差し出そうとして耳に声が通った。 「あ、あの……良ければなんだけど、ウィリアム役……相手役の台詞を読んでくれないかな! 順番が……じゃなくて……」  先輩の声が縮こまっていく。だが、すぐ我に返り、声量を元に戻していた。 「流れがないと、分からなくなってしまって!」  耳の件を配慮してくれているのだろう。声量と顔の向きを保とうと、心がけてくれているのが分かった。劣等感からの痛みを覚える時もあるが、優しさは純粋に嬉しかった。  先輩は優しいだけでなく、努力家でもある。昼休みには走って体力作りをし、放課後は最後まで残って練習をする。他の生徒が残した仕事を、密かに片付ける日もある。  様々な姿を目にする度、僕は前以上に惹き付けられていった。 「いいですよ……下手だと思いますけど」
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