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 疑問を持ったとて、切っ掛けなしに質問できるほど積極的じゃない。それが僕である。  疑問は温めたまま、僕は先輩との日々を連ねた。 「林野くん、演技、結構上手だね」  向き合い、空で一通り演じたのち呟かれる。突然の褒め言葉に、僕は林檎と化してしまった。  目の前の微笑には、もう戸惑いの欠片すらない。どこか、滲み出す緊張感はあったが。 「とても助かったよ。練習、一緒にしてくれて」  準備でもしていたかのように、流暢に先輩は言う。 「ぼ、僕が声を……聞きたかった……だけなので」 「……す、素敵って……言ってくれたもんね……。あれ、嬉しかった……」  二言交わした後には、もう余裕を失っていたが。  入部当時は、こんな未来を描いてすらいなかった。 「明日……ですね、公演。か、軽くでいいよって言われてたけど、本気で成功して欲しいです」 「……私も」  明日は、ついに公演が行われる。一ヶ月以上かけて積み上げた、努力の集大成を披露するのだ。  予定より深く関わったせいかもしれない。表に立つのは先輩なのに、強い緊張で体が強張った。他人の僕でこれだ。先輩はもっと、強い金縛りに見舞われていることだろう。  力付ける言葉を探したが、別れても、家に帰っても見つからなかった。
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