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ハイブリティア王国
一
嘗ては城の全貌が見えていたハイブリティアは、魔法使いがいなくなってしまった現在、市街地をすっぽり取り囲む分厚そうな城壁に囲まれた城下町となり、近付く者全てを拒絶しているかのようだ。
陸での戦いでは圧倒的に強いだろうが、敵は陸から襲いかかって来るとは限らない。ドラゴンという魔物は時として上空から襲って来る。激しい嵐と共に。ハイブリティアの戦士たちは手の届かない所からの攻撃に著しく弱い。
だからドーム城の迎撃台を用意したのだろう。あらゆる方向からの攻撃に対処出来るように。ハイブリティアから魔法使いがいなくならなければ、こういう事にはならなかった筈。全てはハイブリティアのプルテス教会に責任があると皆口を揃えてそう言っている。
「所でお嬢さん、その服の刺繍は北ハイブリティアのものではないですか?」牧人の男性が、ちらりと私の服を見て訊ねて来た。
「よくご存知ですね」
「北ハイブリティアには村があるんですが、そこの人は柊の木に印を付ける風習がるんです。道に迷わないように。刺繍の模様として縫うご家庭もあるそうです」
「おじさんは、元々そちらの人?」
「いえ。私はただの牧人ですよ。あっちこっちで雇われるので色々と話を聞くんです。ところでお嬢さんはハイブリティアに何をしに行かれるんですか?」
「仕事探し、というところです」
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