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ちひろの大きな手が滑らかな凪の肌を撫でる。女性顔負けの陶器ような肌だった。
「俺はね、凪のことが好きなんだ」
「……は?」
全く予想していなかった言葉が聞こえ、凪は低い声を漏らした。嫌がらせのようにしか思っていなかったのに、その反対の意味をもつ言葉。
「だから、怖がらせて悲しませるつもりもなかったんだよ。俺ね、凪と付き合いたい」
「無理に決まってんだろ……」
「うん。だから、先に抱いた。早く俺のモノにならないかな」
嬉しそうにふふっと笑うちひろの声が聞こえた。凪は目を見開いて瞳を揺らす。目の前には、一瞬でも柔らかな膨らみを想像した平らな胸板。
筋肉の盛り上がりが目に入り、頭は真っ白になる。
フラれて諦めるどころか、全くそんな素振りはない。むしろ、いつかは自分と付き合うことが決定してるかのような口ぶり。
どうしたらそんな思考になるのかと凪には全くもって理解できない。
「お前……なに言ってんの?」
「ん?」
「こんな酷いことして、無理矢理抱いといて、なんで自分のモノになると思ってんの……?」
「え? 何でって何で? 凪、気持ちよかったでしょ?」
「よくねぇし! 怖いって何回も!」
勢いよく顔を上げ、ぐわっと声を荒らげる。そんな凪の頬をそっと撫で上げ、ちひろは触れるだけのキスを落とした。
「次はもっと優しくする」
「次ってなんだよ……も、これ以上は……」
体が完全に悲鳴を上げていた。普段使わない関節はギシギシと軋んだように痛み、変な音を立てるし、本能はまた恐怖を思い出す。
「今日は俺が我慢できなかったからね。自分本意に抱いたことはまぁ……男として最低なことをしたと思ってる」
「男としてってより、そもそも人間としてな。背徳以外のなにものでもない、むしろ犯罪だってことを理解してくれ」
「うん。もっと凪にどうして欲しいか聞きながらできたらよかったんだけどね」
「おい、聞いてねぇな」
「なんせ凪が可愛すぎたものだから、全部堪能したくなっちゃって」
へへっとちひろは照れたようにコテンと頭をベッドに預けて無邪気な笑みを見せた。
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