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凪は激しい目眩を覚えた。目の前の男は全く反省していないどころか、これしか方法がなかったとでも言いたげだ。更にまだ次があると信じて疑わない。
凪はどうにかこの男から逃げなくてはと考えた。しかし、腰も股関節にも激痛が走る。おそらく明日になったら筋肉痛も押し寄せる。想像しただけで生き地獄である。
「やっぱりお泊まりつけといてよかったよね。このまま仕事に行くのは辛いもんね」
ちひろが凪の頭を撫でながらそう言った。どうせ寝るなら1人で寝たかった。凪がそう思うのも当然のこと。
「お泊まりあっても辛ぇわ」
「じゃあ、明日休んじゃおう」
「予約入ってる。待ってる客がいるのにそんなわけにいかないだろ」
「……意外と真面目だ」
ちひろはしぱしぱと目を瞬かせた。まるで不思議なものを見るような目を凪に向ける。茶色の瞳は、猫のようだった。
「真面目にやってんだよ! こっちは! それを、お前が……」
凪は段々と恐怖よりも怒りが勝ってきた。なぜ初対面の男に犯された挙句、仕事の邪魔までされなきゃいけないのか。
「凪は女の子のこと、お金としか見てないと思ってたから」
「……だったらなんだよ。金としてしか見てなくても仕事は仕事だ。自分で入れた仕事は責任もってやる」
「あー……。どうしよ、好きだな。そういうの。責任感強めなやつ」
面倒くさそうに顔をしかめた凪だったが、その発言にちひろはぽわんと頬を染めてうっとりしたように艶っぽい視線を向けた。
「なっ……やめろ! そんな目で見んな! お前のことも仕事だから仕方なくっ」
「うんうん、わかってるわかってる。じゃあ、一生懸命な凪に免じて今日は寝かせてあげよう」
「っざけんな! 次とかねぇからな! SNSもブロックするから!」
「えー……悲しい。寂しい」
ちひろは切なそうにしゅんと眉を下げ、あからさまに落ち込んで見せた。
「あたりめぇだ! もう二度と会うことなんかない!」
「んー……じゃあ、今日は俺の腕の中で眠ってね」
「どうせ離さねぇんだろ、時間まで」
「うん、離さない」
呆れたように顔を歪めた凪に、満面の笑みを見せるちひろ。やはり全く響いていない様子のちひろに、凪はげんなりする他なかった。
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