嫌いなアイツ

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 えみりと別れた凪は、店から不在着信があることに気がついた。スマートフォンを素早く操作して、折り返しの電話をかける。  直ぐに内勤の担当者の声が聞こえた。 「ああ、ごめんね。仕事中だってわかってたんだけど、確認したいことあって」 「大丈夫です。確認したいことってなんですか?」 「ちょっと前にNGにした客いたじゃん」 「ああ、はい……」  凪の頭にはふっとちひろの顔が浮かび、苦虫を噛み潰したような顔をした。体が痛む度に嫌でも思い出す顔。もういい加減あの日のことは忘れたいと何度も思った。  連絡手段は絶ったし、予約の際に使用した連絡先は拒否し、ちひろ自体を出禁にしてもらったのだ。  もうこれで予約は入れられないはず。そう思うのだが、どうにか別のアカウントを使って予約を取りそうだとも思い警戒心は敏感なままだった。  そんなちひろのことを言っているのだ。おそらく予約を取りたがってるのだろうと頭痛がした。 「名前、ちひろで入ってるけど。新規」 「断って下さい。ちひろって名前は全員」 「でも違うかもしれないし……」 「本人だった場合、本当にマズイんでやめてください」 「わかったよ……。じゃあ、予約入れずにおくね」 「お願いします。俺も暫く新規の客は取らないようにしますんで」  凪はそれだけ言うと、電話を切った。ちひろのせいで怖くて新規の客もとれやしない。もちろん凪であればリピート客だけで1日を埋めることができるが、いつ離れていくかわからない客だけに頼るのも将来性が不安となる。  上手くいかない段取りに凪は苛立ちながら、ガシガシと頭を搔いた。頭痛が酷くなったような気がした。 「あー……このあと美容院だったわ」  次の予約まであと4時間。その間にパーマとカットとカラーを予約してあった。時間まで食事でもして暇を潰そうと大きくあくびをしながら凪は歩き出した。
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