嫌いなアイツ

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 成田はコンテストに出場すれば全て最優秀賞を得られるほど。しかし、どんなに話題になっても、どんなに取材がきても顔は出さなかった。  ただ、カットを受けたメンズ客全員が言うのは「男からみてもとんでもなくイケメンだった」である。  実際に成田に会って、彼自身の髪型を見て同じようにして下さいと注文する客もいる。更に、成田に憧れて次の予約を入れる人もいるのだ。  SNSでイケメンだと話題になる度に女性客からの予約の電話が殺到したが、メンズカット専門だと成田が全て突っぱねた。  そんなところも男性客からは好感があるようだ。 「こんにちは。今日から俺が担当させてもらいます」  後ろから声が聞こえて、遂にきた! と凪は勢いよく顔を上げた。鏡越しに映るミルクティー色の髪。米山をも見下ろす長身。透き通るような白い肌。目鼻立ちがハッキリとした綺麗な顔。  その後に凪の脳内を成田の声が再生される。 「俺が担当させてもらいます」 『俺はね、凪のことが好きなんだ』  どこからともなくそんな声も聞こえた。同じ声だった。そしてにっこりと笑った顔も、あの日会った人物と同じだった。 「米山さん、あとで指示出すんでとりあえず髪見させてもらっていいですか?」  成田が隣に立つ米山に声をかける。 「ああ、うん。じゃあ、俺は成田さんのお客さん見てくるよ」 「お願いします。多分、田畑さんもうカラーいいと思うんで」 「はいはい。じゃあ、凪くんお願いします」  ペコりと頭を下げた米山と一瞬目が合った凪。 「まっ!」  引き止めようと腰を上げたが、成田にグッと肩を押されストンと椅子に着地する。それから耳元に顔を寄せ「逃がさないよ」と囁かれた。 「っ……な……な……。どういうことだよ! お前が成田」 「うん? ちひろだよ。言ったじゃん。成田千紘(ちひろ)」 「……そうだ」  ちひろという名前を警戒していたが、まさかこんなに身近に存在していたとは思っていなかった。完全に女性と偽るための偽名だと思っていたのだ。  今日くるまで関わりのなかった成田の名前が千紘であることなど凪の知るところではない。 「この前会った時に思ったんだけど、かなり髪傷んでるんだよね。ブリーチしたんだっけ」  成田こと千紘は凪の髪に触れ、毛先を見ながら言った。途端にあの夜ちひろに頭を撫でられたことを思い出す。ただでさえまだ後口は違和感が拭えないのだ。  あの日の悪夢を鮮明に思い出せるのも体に植え付けられた恐怖と感覚のせいだ。  化粧などしていなくても元のパーツがいいからか、十分中性的な顔をしていた。ただ、以前会った時に比べればいくらも男性っぽい。  髪もそのウルフカットを丁寧にセットしていて、中性的と言いながらも男の色気が滲み出ていた。
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