嫌いなアイツ

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 軽くシャンプーしてもらった凪は、パーマとカラーを終えて再びシャンプー台へと案内された。  時折千紘がやってきては確認をしてまた成田ブースへ帰っていく。そんなことを繰り返していた。  まあ……このくらいの頻度ならいいか。もっと色々言ってくんのかと思ったけど、アイツ忙しそうだしそれどころじゃないか。  凪の角度からは見えない成田ブース。しかし、続々と客が帰っては入ってくるを繰り返している様を見れば、あれだけの大人数を相手にしていることに驚く。  普段1対1で仕事をしている凪には考えられないことだ。よくもあんなに同時進行してメニュー間違えないな、と感心すらした。 「米山さんいなくなっちゃうの悲しいですね」  不意に緒方に話しかけられた凪は、千紘の低い声を思い出す。 「そうですね……2年もお世話になったんで」 「そうですよね! でもいいなぁ……。俺も早く成田さんに認めてもらえるように頑張らなきゃって思ってます」  健気にそんなことまで言う。そして米山が認められて本店に移籍するわけではないことは口が裂けても言えなかった。 「あの……成田さんってどんな人なんですか?」 「成田さんですか? もう、圧倒的なカリスマですよね。優しいし、カッコイイし、仕事できるし」 「……優しい?」 「はい。スタッフ皆に優しいですよ。そりゃ、仕事中、ミスしたりしたら凄まれることはありますけど……」  余程怖い経験をしたことがあるのか、一瞬緒方の目が泳いだのを凪は見逃さなかった。 「……怒ると怖いんですね」 「えっと、まあ……。でも、それもプロ意識が高いからであって、成田さん自身はめちゃくちゃ仕事ができるので仕方ないですよね」  怖いよな……。いや、怖ぇよ。アイツ、ニヤニヤしながら人の腕縛って無理矢理挿入するようなヤバいヤツだぞ。  そりゃ震え上がるほど怖いって。  凪は緒方に同情しながらも、他のスタッフから「仕事ができる」と好評なのは認めざるを得なかった。
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