嫌いなアイツ

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 凪は目を見開いて千紘を見上げた。ニコニコと口元は上を向いているが、ドス黒いオーラが体に纏っているのが見えた気がした。 「は、はぁ!? 何言って」  凪は否定してその場から逃げ出そうとするが、シャンプー台はほとんどフラット状態で、頭を後屈させた状態である。  当然身動きなどできるはずはなく、浴室で拘束された場面を思い出した。 「凪ってば酷いなぁ。俺にはあんなに楽しそうにしてくれないのに」  しょぼんと寂しそうにシャワーのお湯を出しながら千紘は言う。 「お前といて楽しかったことなんかないだろ」 「え? 楽しかったじゃん。いっぱいイチャイチャ」 「あー! ん゙ん゙ん! ゲホゲホッ」  千紘の声をかき消すかのように凪はわざと喉を鳴らし、咳き込んでみせた。水音と凪の咳払いに千紘の声は途切れたが、その代わりに「恥ずかしがり屋さん♡」と甘い声が聞こえた。  ぞわっと凪の全身に鳥肌が立った。 「やめろ」 「ふふ。髪流してくからねー」  ゆったりとした千紘の声。声だけなら低音で心地良さすら感じる。しかし、言うことなす事悪魔のように兇悪なのだから全く安心などできない。  緒方よりも大きな手は、凪の小さな頭蓋骨をスッポリと包み込む。 「凪、頭小さいよね」 「お前の手がデカいんだろ。つーか、シャンプーなんかしてる場合なのかよ」 「なんかって言わないでよ。こんな絶景を他の男に見せるなんて耐えられない」 「一々気持ち悪いよな、発言が」 「印象に残るってこと? 嬉しいなぁ」 「お前の脳内変換バグってんぞ」 「凪のことで頭いっぱいだからね」 「……」  何を言っても無駄なのは今更のこと。凪は言い返すのもバカバカしくて、あっさりと口を閉じた。  それが面白くなかったのか、千紘は目を閉じてシャットアウトする凪の耳に軽くシャワーをあてた。 「っ……」  通常、シャンプー時には耳に湯が入らないよう濡れるのを避けるものだ。それを直接あてられたものだから、凪は驚いて声を上げそうになった。
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