嫌いなアイツ

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 水圧を軟骨部分に感じる。少し熱く感じたお湯に、ゾワゾワと皮膚の下を虫が這っていくかのような感覚を得た。 「やっ、めろよ!」  千紘の舌によって集中的に耳を攻められたあの時を思い出す。甘噛みして、舐め上げて、唇でつまんだ。  その度にゾワゾワと体が震えてそれに耐えた。 「凪、耳弱いからね」  余裕そうな千紘は、平然とシャンプーを洗い流す。大きな手で頭を包み込み、お湯をたっぷり含ませて洗っていく。  凪はじとっと目を細め、千紘に睨みをきかせた。  コイツ……わざとやりやがった。しかも耳弱いとかなんだよ。なんなんだよ! あん時だって嫌だっていってんのに何度も何度も……。  つーか、耳攻められたのなんかあん時が初めてだったし!   何もかも千紘のペースで納得いかない凪だが、そっと目を閉じて一々反応するのはやめた。  そんな凪の内心を知ってか知らずか、千紘は無言で流れるように二度目のシャンプーに進んだ。  モコモコと大量の泡が立ち、凪の頭を覆った。千紘が指を大きく広げると、凪の頭皮に指の腹を押し当て、少しずつ解していく。  丁寧なマッサージは、凪が今まで味わったことのないほど心地良いものだった。  うわ……なに、これ。気持ちいい……。アシスタントの方が数こなしてるはずなのに全然違うわ。  思わず凪が心の中でそうこぼしてしまうほど、適度な指圧でゆっくり、ゆっくりとほぐされる。  凪の呼吸が穏やかになると、上から見下ろしていた千紘はふっと口角を上げた。あんなにも警戒していた凪が、自分に触れられているにもかかわらず完全にリラックスしているのだ。  歓喜しないはずがなかった。  首の付け根はとても凝っていて、筋肉が凝り固まっているようだった。そこを押せば、少し眉を動かしながらも気持ち良さそうに目元の力を抜いた。 「気持ちよさそうだね」  ほんの少しからかうつもりで千紘がそう言えば、凪は気の抜けた声で「ん……気持ちい」と呟いた。
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