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第42話 ご褒美
電気代が青天井と思われる豪華なシャンデリアの下。場違いそのものの高級クラブのVIPルームで、僕は凍り付いた場にいた。
僕が個人的な意見をのたまった瞬間、みななぜかだんまりを決めてしまったのだ。
「相模原君、きみ、すごいじゃない。今のぐっと来たわよ」
その時、救いの声が。凍り付いた場の先陣を切って、黛さんが肩をぽんぽん叩いて褒めてくれた。褒めて、くれたんだよな?
「ああ、本当だ。うん、いいこと聞けたよ。さすが城南先生が認める書生さんだ」
藤堂社長も隣の脇田副社長も喜んでくれた。周りのお姉さんたちも、ほっとしたようにグラスを傾ける。
苦虫を嚙み潰したような祐矢氏。してやったりの陽菜さんが親指を立てて見せてくれた。そして、晄矢さんの表情を恐る恐る見ると。
『す・ば・ら・し・い』
と、唇を動かし、パチンとウィンクしてくれた。
――――わ。良かったっ!
それからは一気に場が和み、一人を除いていいお酒の場になったようだ。いや、その一人だって、今回は接待だったんだから、悪くなかったよね? そう願いたいのだけど。
「相模原君にはぜひうちの会社に来てほしいけど、弁護士志望なんだよな」
藤堂社長が僕を見ながら残念そうに言う。
「はい。そのつもりで勉強しています」
「よし、じゃあ君が弁護士になったら、うちの担当になってもらおう。いいよね、城南先生」
苦虫がいが虫みたいになってる城南先生。無理やり笑顔を作った。
「そう……ですね。まだいつ弁護士になれるかわかりませんが……」
「すぐになれるわ。ねえ?」
黛さんが僕の肩にしなだれてきた。どうやら酔いが回ってるらしい。
「すぐには無理ですが、頑張ります」
「おお、優等生だな。あれ、進んでないじゃないか。これ、高いお酒だよ」
脇田さんが僕に高級ウイスキーが入ったハイボールのグラスをぐいっと押し付ける。
――――うっ! これは……。
「すみません、脇田さん。相模原はアレルギーがあって。こっちでお願いします」
晄矢さんっ! ありがとう! あの日の醜態を知るのは晄矢さんだけだ。救いの手を伸ばしてくれた。
酒に見えるけど、多分ノンアルコールだ。晄矢さんはハイボールの入ったグラスとそれを交換し、乾杯の仕草をする。僕もすぐにそれを応じた。
「ああ、そうか。すまんすまん」
「いえ、無作法で申し訳ありません」
「いいの、いいの。あ、私もハイボール作って、晄矢先生」
「仰せのとおりに」
なんとか危機を脱したところで、僕はトイレに立った。本当はこのままドロンしたいけど、無理かなあ。
「涼」
化粧室の洗面所で手を洗っていると晄矢さんが入って来た。
「あ、お疲れ様です」
「ああ……涼、さっきの切り返しは素晴らしかった。会社のアウトライン、こっちに来る間に予習したのか?」
「あ、うん。記憶するのは得意だから……」
洗面所が狭いからだけど、すごく近いよ。晄矢さんのオーデコロンの香りが鼻孔をくすぐる。
「記憶だけじゃない。理路整然としていたし、ユーモアもあって……俺は魅了されたよ」
「え……ほんと?」
さっと顔を上げる。僕に優しい視線を向ける晄矢さんがいた。思わず目を閉じる。まるでご褒美をおねだりするように。計ったように柔らかい唇が触れた。
誰か来るかもしれない。でも、我慢できない。僕は晄矢さんの背中に両腕を回し、甘いキスに溺れていった。
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