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第20話 テーブルマナー
その日、僕が城南家に帰ると、三条さんが手ぐすね引いて待っていた。いや、別に怒られるわけじゃない。
「それじゃあ、手っ取り早いところから、コース料理の食事の仕方からやりましょう。あ、カリキュラムはこちらです」
と、既に食器がセットされているダイニングテーブルに僕を座らせた。レストランのメニューのような僕のマナー教室カリキュラムを目の前に置かれ、それに目を通す。
――――テーブルマナーに正装の着方、茶席まである……。
「晄矢様からは、お勉強の妨げにならないよう、1時間程度で終わらせるようにと言われています。なので、御心配は無用ですよ」
さすが晄矢さん、よくわかってるな。
「私がお教えするのは毎週火曜日と木曜日にとのことです。この曜日は相模原様が事務所に来ても仕事を頼めないだろうと聞いておりますが……」
「はい。よろしくお願いします」
それは僕も既に聞いている。火曜、木曜は出張が多くて事務所にいないらしい。昨夜遅くまで事務所で仕事してたのもそのためだ。晄矢さんは本日名古屋に日帰り出張してる。
フレンチのディナーコースは、マナーを学びながら当然僕の夕食になる。こんな贅沢なものばかり食べて病気にならないかな。
僕もフォークの並び方くらいは知識として知ってるけど、ナイフで肉を切るなんて初めてだ。つい鳥肌が立つような奇怪な音を発してしまった。
「お肉は柔らかいのでそんなに力を入れる必要はないです。もし硬いときは……」
それでも嫌な顔せず、三条さんは丁寧に教えてくれた。お肉うまい……。お肉と言えば、大学の奨学生に合格した時、ばあちゃんが初めてすき焼きを作ってくれた。あの時のお肉は美味しかったなあ……。
マタギのおじさんから猪肉を分けてもらったんだけど、やっぱり新鮮が一番だよね。このお肉はそれに比べると全く歯ごたえないけど。それでも舌に残るふわっとした甘みがたまらない。
「相模原様のように本当に美味しそうに食べてくださると、料理人も幸せです。より美味しいものを提供しようと頑張れるでしょう。マナーなんてその食べっぷりがあればどうとでもなりますね」
「え? いやあ。本当に美味しいんです」
「私がそんなことを言うのもなんですけど、自分もシェフと一緒に調理していますので」
「本当ですか! 凄い。こんな美味しいものを作れるなんて天才です!」
僕は掛け値なしに感動した。三条さんは掃除や洗濯だけじゃなく、家事一般全てを取り仕切っている。それなのに、料理まで作っているとは。まあ、家庭にシェフがいるだけでも驚きだけど。
「やはり、晄矢様の人の見る目は間違いないですね」
僕はそこでハッとする。三条さんは今回のこと、どこまで知ってるんだろう。
「あの、三条さんは、今回のこと、どう思っておられますか? 赤の他人が『恋人です』って、この屋敷に乗り込んで……しかも男性……」
僕は思い切って聞いてみた。どんな答えが返ってくるのか、僕は出されていたコップを手に取り、水をごくりと飲みこんだ。
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