第3話 突然の依頼

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第3話 突然の依頼

「おはよう。涼、なに、おまえまたバイト増やすの?」  大学の情報センターの掲示板をぼんやり眺めていたら、後ろから声を掛けられた。今時はなんでもネットだけど、センターでは相談にも乗ってもらえる。二度とあんな理由でクビになりたくないので、話を聞いてもらいに来たのだが。 「ああ、いや。実はクビになったんだよ」  声をかけてきたのは同じ学部の岩崎だ。彼も裕福ではない家庭なので、いつもバイトや節約トークで盛り上がっていた。アパートも同じだ。 「マジで! おまえをクビにするとは、にわかには信じられんな」  そうだろう。僕だって信じられないよ。昨日あったことをかいつまんで話すと、岩崎は同情の表情で僕を見た。 「そうかあ……それは酷いな……。あ、じゃあ、これ行ってみないか?」  岩崎はスマホを見せた。僕も一応スマホは持っている。これがないとバイトはおろか、大学の講義に出席するのも事欠くのだ。パソコンも大学から支給されたものを使っている。  大学とアパートは学生用フリーWiFiがあるおかげで最低料金での契約だけど、それだって結構な金額だよ。それもバイトが欠かせない理由なんだが……。 「なに?」 「新しいホストクラブが出来たみたいなんだ。涼なら……」 「断る」  ホストが体を売るとは言わんが、またぞろ面倒な争いごとに巻き込まれるのは目に見えている。 「だよな」  岩崎も可愛い系の童顔だ。僕を誘おうと思ったのかもしれないが、行くならおまえ一人で行ってくれ。曖昧な笑顔のあいつを残し、僕はキャンパスへと出た。  昨日、店長からは退職金代わりの一万円を貰った。それでなんとか食いつなぐとしても、今週中には決めないと。ため息を吐いたその時。 「君、そこの君。ちょっといいかな」  なんだよ。ここは大学のキャンパスだぞ。僕はまたナンパかと思いムッとした表情で振り返った。 「あ……え? 嘘」  そこには今朝、夢の中にいた人物そっくりの男性がいた。あ、もちろん服は着ている。 「ん? どうしたの。少し話がしたいんだけど……」  男はブランド物と思われる真新しいスーツをビシッと着た長身で、明るい髪色は染めているのか地毛なのか。  ストレートの短髪だが自然な感じにまとまっている。くっきりした二重瞼に鼻が高く、ハーフのような雰囲気が漂っていた。  ――――僕はまさか、正夢でも見たのか? じゃあ、こいつ、僕を5万で買う気か!?  しかし、まだ何も言われてないのに、挑戦的な表情を見せるのもなんだ。 「なんでしょうか……道案内なら……」  大学2年生とはいえ、広いキャンパスの隅から隅まで知ってるわけではない。センターに行くことをお勧めしようとしたら、彼は両手を振って苦笑いした。 「いや。そういうわけじゃなくて。君を雇いたいんだ」 「は?」  おいおい、マジで正夢だったのか? 「もちろん大学に通いながら。俺の仕事を手伝ってほしいんだ。住み込みで」  怪しさしかない依頼に僕は何も答えられず、あっけに取られて彼のはにかんだ笑顔を見た。
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