一章〜すれ違い〜

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鳴海(なるみ)さんいます?」  その低い凛とした声だけで、誰のものか聞きわけることが出来るようになったのは、こんな習慣が一ヶ月も続いたから。お昼時間になると間髪なく俺のいる教室にやってくる二年後輩の渉を、いつものように机の陰に隠れてやり過ごそうとする。隠れた机の主である大翔(ひろと)が平生の決まり文句で「逃げたぞ」と、苦笑しながら返答する。  教室内の女子が俺にはむけたことのない黄色い声で渉の出現に騒ぎだすが、教室に俺がいないことを確認するや否や、さっさと廊下を走ってどこかへ行ってしまった。その足音が充分にこの階から消えたことを確認すると、安堵のため息をついた。 「毎度すごいな、お前のストーカー」  大翔は購買で買ったコロッケパンを食べながら、俺に慰めの言葉をかけてくれる。 「ストーカーじゃないから!いじめっ子だから!」 「そう思ってんの、お前だけ」 「だってそうだろ!そうじゃなきゃ、毎日飽きもせずに俺の弁当食べつくしにきたり、俺の寝顔とか写真に撮ってそれを待ち受けにして笑ったり、俺と一緒に帰るとかいって追いかけてきたりとか、普通しないだろう!」
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