にぶすぎる男

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「姑と嫁の関係が良好なら、遺産のことも話すと思ったの。さっき主任の言った金額を奥さんが知っていたら、奥さんはなんとしてでも主任を母親より長生きさせるわ」 「どういうこと」 「相続の話よ。お母さんより先に主任が死んじゃうと、法律では奥さんにお金が入らないようになってるの」 「へえ、そうなんだ。主任っていかにも不健康だからな。五十になったばかりで心筋梗塞やってるし」 「もしかしてって変な声を出したのは、奥さんの気持ちがわかったからなの。奥さんは、一日でも早く主任に死んでほしいのよ。体に悪いもの、一気に解禁だもん。主任が死ねば、財産は奥さんのものよ」 「あの人、奥さんの殺意に気づいてるのかな」 「気づくわけないわよ。私たちにうっとうしがられてるのに、しつこく飲みに誘うバカよ」  今まで、沈黙を守っていた新人が本音を吐いた。 「僕、奥さんに協力したいです。あの下品で横柄なおっさんがいなくなると、せいせいするし」  林が席に戻るなり、三人は陰のある笑みを交わした。 「主任、唐揚げ追加しますか」 「おお、気が利くな。やっぱり酒があると箸が進むよな」 「塩辛、お好きでしたよね」 「俺の好物を覚えていたか。おまえ、もしかしたら俺に惚れてるな。ガハハハハ」 「僕、主任みたいにお酒が強くて、食べっぷりのいい人にあこがれます。今日はとことんいきましょう。シメにラーメンどうですか。スープの美味い店、知ってるんですよ」 「お、しょうゆか、とんこつか」 「しょうゆベースのこってり系です」 「いいね、いこうぜ。やっぱり酒はたくさん飲むほうが楽しいよな。なにが一杯でやめとけだ。おまえらもそう思うだろ。ガハハハハ」
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