妹に婚約者を奪われた日に、神社の狐から恋人役を演じてほしいと頼まれました。

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「隣国で見聞を広めてきた旭なら、公人君と共に千種家を盛り上げてくれるだろう」  父親が己の髭を撫でる。  瑞穂の意志は関係なく、旭と公人の関係は公認となっていることが伝わってきた。 (……しかたない)  理解した瑞穂は、口角に力を入れた。 「そうね。公人さんと旭、とてもお似合いだと思うわ!」  そして、努めて明るく声を張り上げた。 「これからのことをお話しに来たのでしょう? わたしは外を散歩してまいりますのでゆっくりとなさってください」 「ほんとうに瑞穂は気が利くわね。しばらく帰ってこなくていいわよ」  そんな母親は、瑞穂を見ようともしなかった。 *  瑞穂が訪れたのは近所にある稲荷神社。  ちょうど今は紅葉の季節だ。  鮮やかな紅色に負けない朱塗りの鳥居をくぐり、瑞穂は境内をのんびりと歩いた。  瑞穂の着物は、枯葉色。  まるで紅葉のなかに埋もれてしまいそうだった。  稲荷神社は、五穀豊穣と商売繁盛の神様である。  商家の長女として参拝するのが瑞穂の日課となっていた。朝に参拝は済ませていたが、行くところが思いつかずにまた来てしまった。  手水舎を過ぎて拝殿まで辿り着くと、顔を上に向ける。 「神様、お願いします。旭と公人さんが末永く睦まじくありますように」 「お前は馬鹿か?」 「きゃっ!?」  突如降ってきたのは男性の低い声。
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