妹に婚約者を奪われた日に、神社の狐から恋人役を演じてほしいと頼まれました。

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 ぐわんぐわん、と紅葉が空中で渦を巻き――  さらりと流れる銀髪の、糸目の男が立っていた。  灰色の着流しが様になっている。  手には、煙管(きせる)を持っていた。 (見るからに、人ならざる者……。とても美しい御方。だけど) 「境内は禁煙ですよ?」 「おい、娘。驚くところが違うだろ」 「どこからどう見てもあやかしにしか見えませんが、神社内に現れるということは悪しき存在ではないかと思いまして」 「豪胆なやつめ。……まぁいい。俺はこの神社の狐で、名前を(しろがね)という。毎日毎日飽きもせず参拝するお前に頼みがある」 「俺の恋人を演じてほしいんだ。神の宴、その間だけでいい」  銀の頼みを聞いた瑞穂は、流石に驚かざるをえなかった。 「こ、恋人!?」 「この社に祀られている神は全国の稲荷神社を回っていて、それはそれはたいそう忙しい神様なんだが、数百年ぶりにうちに来てくれるという報せがあってな。それだけならよかったのに、よその狐を連れてくるから結婚しろとぬかしやがった。よく知らない狐なんて御免だと言ってやったら、じゃあ他にいい狐を連れてこい。いないなら主の命に従えと無茶を言ってきやがった」  銀は忌々しそうに語った。 「あの、しろ様」 「あぁん?」 「すみません。しろがね、は呼びづらくって。駄目でしょうか」 「かまわん。だが、様付はやめろ」 「しろさん」 「何だ」
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