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「狐の香りだ。これをつけておけば、人間に化けるのが上手い狐だと思わせることができるはずだ」
「ありがとうございます。えぇと」
どこにつければいいか戸惑っているのに気づいた銀は、渡したばかりの練り香水を奪った。
「首の後ろがいい」
「ひゃっ!?」
銀は香水を指につけて、すっと瑞穂のうなじに載せた。
そのままうなじに鼻を近づける。
「よし。いい感じに香ってるぞ」
銀が顔を離すのと同時に、瑞穂は両手でうなじをおさえた。
顔は真っ赤。涙目で銀を見上げるも、銀は一切動じない。
「さぁ行くぞ」
「今からですか?!」
「今からだ。出されたものは決して口にしてはいけない。それだけ覚えておけば大丈夫だ」
銀が瑞穂に手を差し出した。
恐る恐る瑞穂が銀の手を取ると、そのまま腕を組む形になる。
ぴたりと密着することで、香りがふたりを包み込む。
(緊張で心臓が口から飛び出しそう。だけど、がんばろう)
「きゃあっ!」
ぶわぁっ、と紅葉が渦を巻いて――
瑞穂が目を開けると、そこはまるで雲のようなふわふわした空間だった。
金色や銀色に光輝く人型の存在が宴会を開いていた。
宙に浮く酒、食べ物、見たことのないものばかり。
物珍しさに瑞穂はきょろきょろと辺りを見渡してしまう。
すると、ばちっと視線が合った。
『銀、銀。その子があんたのいいひとかい?』
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