妹に婚約者を奪われた日に、神社の狐から恋人役を演じてほしいと頼まれました。

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   お人好しの姉、器量良しの妹。千種(ちぐさ)家の姉妹を評する言葉だ。  妹の(あさひ)は大きな瞳の愛くるしい少女。どこへ行っても話題の中心。  反対に、姉の瑞穂(みずほ)。  数少ない楽しみは三味線と読書。むしろ、それ以外は姉を羨ましがった妹に譲ってしまった。  つげ櫛も、美しい着物も、隣国への留学も。  そして。 「ただいま戻りました」  ある日、瑞穂が三味線の稽古から帰宅すると、居間には両親と旭、瑞穂の婚約者である公人(きみと)がいた。  公人と瑞穂は両家が決めた婚約者であり、商家の千種家へ婿入りすることが決まっている。  これまでならば公人は瑞穂の隣に座るのが常だった。  しかし、公人は旭に寄り添っていた。見つめ合うふたりに隙間はなく、瑞穂が帰ってきたことにもしばらくの間気づいていなかった。 「公人君。瑞穂が帰ってきたぞ」  姉妹の父親に促されて、公人は気まずそうに咳払いをした。  公人が口を開くより先に頬を紅潮させた旭が告げる。 「お姉様、ごめんなさい。わたくし、公人さんのことを好きになってしまいましたの」  入口に立ったままの瑞穂は、旭と公人を交互に見た。 「お父様もお母様も、公人さんの了承があればお姉様ではなくわたくしが公人さんと結婚していいと言ってくださったの」
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