第一話 やっと会えたね

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第一話 やっと会えたね

「我が名は壱葉(いちは)。大妖怪だ。そなたは我に何を望む?」  視界がぐらつく中、立っているのもやっとだったがどうにか言い切った。乳白色の煙のような水蒸気が立ち込めたこの場所は、建物の中らしいということだけがわかる。こっ、こっと時計の針が動く音が聞こえるからだ。俺は人間が時を刻むことを重要視していると知っている。  徐々に水蒸気は霧散して、辺りの様子が判明してきた。きょろきょろと見回すと、牛岩(うしいわ)が六つは入りそうな広い部屋だった。牛岩というのは俺が住んでいる巴賀山(はがやま)にある、お気に入りの苔生した岩だ。俺が上に乗って寝転がれるくらいだからなかなかのサイズだ。何しろ俺は、ただの狸よりも二回りは大きい。  室内の壁は三面が杉材の本棚で埋まっている。詰められた本はどれも分厚く、そして古びていた。俺が立っているのは紙に書かれた陣の上だが、床も杉のようだった。照明は天井の中央から吊るされた、どんぐりの殻斗(かくと)がついたような電球が三つ。電球の上には羽根が四枚回っている。完全に視界がクリアになっても、あまり明るくはなかった。本棚以外にはソファという人間が腰掛けるための家具があるくらいで、まあつまらない部屋だ。  おっと、そうだ。観察している場合ではない。俺を呼び出してくれた妖術師は一体どんな奴だろう。ぱっと正面を向くと、妖術師は真っ直ぐな黒い髪を斜めに流した若い男のようだった。正確な年齢はわからない。上下黒い服を着ているからだ。学ランとかセーラー服を着ていれば十代なのだということがわかるのだが。人間は年齢によって服装を変えればいいのに。妖術師は、膝をついてこちらをきらきらした瞳で見つめていた。 「やっと……!やっと会えたね……!」
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