5人が本棚に入れています
本棚に追加
「え……?」
妖術師は目を潤ませ、今にも涙が零れそうだ。俺は首を傾げた。やっと会えたとは一体。言い方からして、以前俺とこの妖術師は会ったことがあるのだろうか。
「僕のこと覚えてない……?」
不安そうに眉尻を下げる妖術師だが、まったく見覚えがない。俺は最近の記憶ならあるが、ある程度昔となると全然覚えていないのだ。悪い、妖術師。
「あ……うん、ごめんな。俺、あんまり前のこと覚えてなくて。」
すると妖術師の目から、涙が一筋流れ落ちた。まずい。これでは契約してもらえないかもしれない。知らない奴だけど知っていると言ったほうがよかったのだろうか。でも思い出話をされてもついていけなさそうだし。おろおろしていると、妖術師は指で頬を擦った。そして微笑む。
「いいんだ。というか、それなら辻褄も合うし。」
「そ、そうか。」
助かった。辻褄が合うとはどういうことなのかわからないが、このまま帰されるということはなさそうだ。咳払いして仕切り直す。
「それで……俺、あっ、我に何を望む?」
妖術師はふふっと笑った。
「僕と契約してくれる?大妖怪さん。」
「契約……!」
小躍りしたいくらいだったが気持ちを抑えて、控え目に振舞う。妖術師に舐められてはいけない。しかし、ついに俺も契約ができるのだ。
「嬉しいの?今まで契約したことなかったの?」
「馬鹿を言うな。契約くらいしたことある。」
もちろんしたことはない。俺は妖術師に呼び出されても、最終的には帰されてしまう。呼び出された部屋の内装を見たり、妖術師と世間話をしたりするだけだ。妖術師はまた笑って人差し指を立てた。
最初のコメントを投稿しよう!