第一話 やっと会えたね

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「わかった。契約しよう。」 「ありがとう。本当にありがとう。」  妖術師はほっとしたように胸を撫でおろした。そして膝立ちのままそのまま言葉を続ける。 「僕の名前は宗司郎(そうじろう)。壱葉、契約は成立だね。陣から出ていいよ。」 「ああ。よろしくな。」  俺は一歩前に踏み出した。杉の温もりが肉球に伝わる。妖怪をやっていてよかった。これできっと、俺はもっともっと名を知られて強くなることができるだろう。あとどんぐりもたくさん食べられる。 「早速、人間の姿になれる?」 「え?」  急に問われたので驚いて目を見開く。 「俺、人間の姿になるのはその……苦手というか何というか。」  人間の姿は練習中だ。まだ耳と尻尾が残ってしまう。俺に期待してくれているらしい妖術師に、未熟なところは見せたくない。それに人間の姿になると感覚が鋭敏になって、怪我したとき等かなり痛い。できれば今みたいに狸の姿のままがいい。 「あれ?契約したことあるんじゃなかったの?人間の姿になってもらわないと妖力の受け渡しができないでしょ?」  妖術師は首を傾げて笑いを堪えているようだ。俺は慌てた。 「そうなの?あっ、いや、そうだな。知ってたよ。人間の姿になろう。」  ぶんぶんと頷いたあと、瞼を閉じて息を吐く。久しぶりだからうまくできる自信がない。落ち着け。多分大丈夫だ。頭の中で念じると、俺を中心に水蒸気が発生しぐるぐると渦巻く。乳白色の靄が全身を包み、やがて晴れると俺の肌からはふわふわとした毛はなくなっていた。 「あーあ、やっぱりこうなるか……。」  おそるおそる頭の上を両手で確認する。耳を隠すことができていない。感触でわかってはいたが、上体を捻って後ろを確認すると先端が黒い尻尾も生えていた。  服は昔いつだったか、人間の村で拾ったものをそのまま着ている。上は白くて手首まで隠れるもの、下はふくらはぎぐらいまである青い厚手のものだ。 「狸の姿もかわいいけど、人間の姿もすっごくかわいい。」  宗司郎は俺の視線に合わせるため立ち上がり、俺の両肩に手を置いた。宗司郎は俺の人間の姿の身長からすると頭ひとつくらい大きいようだった。 「そ、そうか……?」  耳と尻尾があると幻滅されるのではと思っていたが、喜色満面の宗司郎に戸惑う。 「いや!かわいいとか言うな。俺は大妖怪だぞ。」  はっと気付いて宗司郎を見上げ、睨む。かわいいというのは侮られている証だ。くそ、はやく完全な人間の姿に変化(へんげ)できるようになりたい。 「はいはい。大妖怪さん、寝室に行こう。」
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