第一話 やっと会えたね

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「寝室?」 「うん。こっちだよ。」  寝るところか。人間は一日のうち何時間かは眠る必要がある。俺たち妖怪との明確な相違点だ。宗司郎は今から寝るのだろうか。俺が一緒に行く必要はないと思うが、宗司郎が俺の手を引いて部屋を出ようとするので、とりあえずついていくことにした。  廊下を通り寝室に入る。寝室はそうだな、牛岩が四つくらいの広さだ。入って奥の壁には大きな窓、いや、ドアがあり外に出られるらしい。バルコニーというやつだ。手入れされた植木が五、六本見える。右側の壁にベッドが寄せられており、ふかふかの掛け布団が乗っていた。ベッドの横にはクヌギタケのような傘を被った柑子色(こうじいろ)の電球が、淡い光を発していた。  促され、ベッドに腰かけた。宗司郎が隣に座り、俺の頭を撫でてくる。耳に当たってくすぐったい。 「じゃあ、妖力もらっていい?」 「えっ、もう?えーと……その……。」  心の準備ができていない。というか、具体的には何をするのだろう。俺は当然妖力の受け渡し等したことがないので、まるで見当がつかなかった。 「安心して。怖がらなくていいよ。」  宗次郎は柔らかな声音を出した。信じていいか?こいつ優しそうだし。 「わかった。」  頷くと、とんと胸を押され仰向けに倒される。宗司郎が俺の上に覆いかぶさってきた。 「……あ、あの?」 「大丈夫。痛くしないから。」  宗司郎は左手で自分の体重を支えながら、俺の頭の上の耳を右手で撫でた。ぴくりと体が震える。だから耳を触られるとくすぐったいし妙な気分になるのだが。狸のときは感じないのに、やはり人間の姿だと勝手が違う。  ゆっくり顔が近づいてきて、俺はどうしていいかわからずぎゅっと目を瞑った。唇に柔らかいものが触れる。 「え……。」
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