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僕は、普段人には言わない悩みを自然と彼に打ち明けていた。
大学生活の息苦しさや、薄い友達関係に振り回される煩わしさ。得体の知れない孤独感や気弱な自分から逃げ出したくて、読書に没頭していることなど。
気軽に話せる友人もいなければ、家族にも心配されたくないから話せない。だから心の内にどんどん閉じ込めていった辛さなど。
気づかなかった思いまでもがスラスラと溢れだしたことに驚いた。
それと同時に、口にしてしまえばそんなに重いことでもなかったのかも、といった気付きにまた驚いた。
加藤さんは、その全てを優しい笑顔で受け止め聞いてくれた。そして、「俺も一緒だよ、同じ。実はみんな同じなのかもな」と言って笑ってくれた。
そのまま空を仰ぎ見る彼は、白い木漏れ日を受け、とても美しい人に見えた。
思わず見とれていた僕に気づいた加藤さんは、チラと視線を送って微笑み、
「ごめん。俺、さすがにそろそろ戻らないと」
そう言って立ち上がった。
僕が下から見上げていると、加藤さんは目線の合う高さまで腰をかがめ「君と話せて良かった」と言い、
「ちゃんと大学は行っとけよ。真くんはそのままの自分でいいから、じゃあな」
僕の頭に右手を当てると名残ある視線を外し、背を向けた。その背に向かって急ぎ立ち上がり、僕は叫んだ。
「ちゃんと会社は行っとけよ。加藤さんも、そのままでいいスから。そのままがかっこいいスから」
それを受けて彼は、軽くこちらを見る仕草をし、フンと顎を小さく上げると去っていった。
勝手な思いだけど、
嬉し気にも、
笑ったようにも見えた。
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