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加藤さんのするどい視線に壮年クレーム客がたじろいでいる。強気な嘘っぱちを並べ立てたってカメラという証拠にはかなうまい。
僕自身の接客だったから絶対の自信はあったのに、弱気のせいで押しやられてしまった。
この方が来なかったら……などと打ちひしがれていると、
「大事なスタッフを脅すようなまねをしたことも全て記録に残ってるんですよ! 警察呼ばれたくなきゃ二度と来るな!」
救世主の声が店内に響き渡った。
壮年クレーム客は、あうあうと口をパクつかせるが言葉が出てこない。完全に見抜かれていると察したのだろう。
壮年クレーム客はひとつ舌打ちをし、バツが悪そうな顔で店を出ていった。
その時の加藤さんは「きみ、よく頑張ったね、もうヤツは来ないだろうから大丈夫」そう告げて帰ろうとした。
だから僕はお礼を言い、
「お店は悪くないです、ダメなのは僕ですから採点に関してはっ!」
そこまで言うと彼はキレイな顔で振り向いて、
「きみは悪くないよ。それに俺はただの客だからね、じゃな」
と言い、去ってしまった。
人に憧れたのは初めてだった。
僕の対応で察知し、咄嗟に割って入ることができる加藤さんの全てが憧れだった──。
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