凄腕拷問官だと思って話してたのに顔が怖いだけのデリバリー配達員だった

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 ここは極秘犯罪者ばかりが集められる西の砦。収監されているのは隣国のスパイや敵の将軍、はたまた存在してはならないご落胤が隠されているなんて噂もあるが、ぱっと見はただの田舎の古い砦である。耳を澄ませば中から悲鳴が聞こえてくるが、澄まさぬ限り外はのどかだ。あくびをこらえていつも通りに門を守っていたそのとき、不意に隣の同僚が声を上げた。 「おい、誰か来るぞ」 「何? ……なんだあいつ。ただ者じゃないぞ」  迷いない足取りでこちらに向かってくる者を見て、門番はごくりと唾を飲み込んだ。 それは、一言で言うならいかつい男だった。 熊のように分厚い体格をしており、今しがた人を殺してきたばかりなのではないかと疑いたくなるほど目つきが鋭い。なんなら頬には赤黒い液体が付着しているので疑いどころではない。サイドを短く刈り込んだ髪はいかめしく、怪しげな袋を担いでずんずんとこちらに向かってくる迫力と言ったら、思わず槍を構えてしまうほどだった。 「どうする? 応援を呼ぶか?」 「いや、間に合わん。 ――止まれ! あやしいやつめ! ……いや、すみません……」  声がしゅるしゅるしぼんでいく。門番だって人間なのだ。ぎろりと睨まれ「ああん?」と殺気を込めて凄まれれば、怯みたくもなる。おまけに彼は就任一か月の若輩者で、こんな不審者に出くわしたことなどないのだから許してほしい。 「な、何の用があってここに来た」 「呼んだのはそっちだろうが」 「呼んだ? ……あっ!」  そういえば今日は遠方から名のある拷問官が来ると聞いていたのだった。これだけいかつい男であれば、さぞかし手際よく情報を引き出すのだろう。謎の袋や返り血だって納得がいく。 「これは失礼しました! お話は伺っております」 「冷めないうちに渡したい」 「それはもう!」  慌てて門番は扉を開く。男の言う通り、情報は鮮度が命だ。特に今回手を焼いている男は、戦争の前には必ず暗躍すると言われるほど名高い『カンパネラ』である疑いすらかかっている。だからこそ上も焦って口を割らせようとしているのだろう。 「お願いしたいターゲットは一番奥の牢におります。どうぞお進みください」  鷹揚に頷いた男は、当然のような足取りで門をくぐっていく。男の背中が地下に消えていくと同時に、門番は深く息を吐き出した。 「……殺されるかと思った……ああ神よ。今日もお慈悲に感謝します」  天に祈りを捧げていた彼は見ていなかった。男が持つ袋には、でかでかと『はなまる食堂』のポップなロゴが刻まれていたことを。
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